春の到来を告げるセルビー大復活祭:チャイナ・オープン 2018 レビュー

長く寒い冬でした。生命の息吹は感じられず、暗い時代を過ごす日々でした。まるで第一次世界大戦後にドイツ帝国が滅び、多額の賠償金を課されて荒廃した経済状態に陥った国民になったような日々でした。しかし、4月に入りすべてが変わりました。その理由は、何を隠そうスヌーカーファン待望の世界チャンピオンの大活躍に他なりません。

世界選手権直前の大会、チャイナ・オープンでは、世界ランキング20位前後の選手にとっては最も気合いの入る大会です。なぜならランキング16位以上の選手は世界選手権予選を免除され、いきなり本戦へ参加できるからです。この権利は非常に重要です。どんなに強い選手でもベスト・オブ・19の試合を3連勝して、予選を通過するのは至難の業だからです。
今大会ではランキング17位だったマーク・アレンが活躍したため、ランキング16位だったライアン・デイと入れ替わり、結果アレンは世界選手権の予選を免除、反対にライアン・デイは予選から勝ち上がらなければならなくなってしまいました。

 

直前でランキング16位へ浮上したマーク・アレン

さて話をチャイナ・オープンの試合に戻しましょう。
初日ではディフェンディング・チャンピオンのマーク・セルビーが登場し、世界ランキング91位のワン・ユーチェンと対戦しました。この試合でもセルビーの調子は上がらず、あわや一回戦負けかと思われる場面が何度もありましたが、運良くフレームカウント6-4でこの勝負を凌ぎました。
なんとか生き残ったもののこれは次の試合ではどうなることかと心配されていましたが、ここからはさすが世界チャンピオンという見事なカムバックが始まりました。

Last 64では昨年のUKチャンピオンシップで敗れたスコット・ドナルドソンを相手にブレイク141を含むオフェンシブなプレーでリベンジすると、次はプラクティス・パートナーのベン・ウーラストンをも退けます。Last 16のリュ・ハオティンにはほぼ何もさせず圧勝すると、準々決勝では今シーズン絶好調であり、今年のマスターズでも辛苦を味あわされたマーク・ウィリアムズが相手となりました。この試合でもブレイク143、136とトータル・クリアランスでウィリアムズにプレッシャーを与え続け、フレームカウント6-2で準決勝へ進みます。もうこの時には完全にスランプを抜け、あの強かった本来のワールドNo,1の姿が再臨していました。次の相手は強敵カイレン・ウィルソンとのベスト・オブ・19の長期戦です。

この準決勝戦ではまずセルビーがリードしますが、その後じわじわとカイレンがセルビーとの差を埋めてきます。アフタヌーン・セッションではフレームカウント6-3でセルビーがリードして後半戦へ向かいますが、次のセッションからカイレンの反撃の狼煙が上がります。ここからはカイレンの代名詞ともいえるブレイク・ビルディングが冴え渡り、そのオフェンス力でセルビーを圧倒し始めます。正直この時のカイレンはかなり神がかっていました。後半戦の初めの7フレーム中5フレームをカイレンが奪いフレームカウントは8-8となります。第17フレームはセルビーが66点のブレイクでこのフレームを勝ち取り、勝利へあと1フレームとします。第18フレームではカイレンがデッド・ウェイトのセーフティ失敗に続き、Shot to nothingもミスしてしまいました。これをセルビーが見逃すわけもなく58点のブレイクを代償としてカイレンに与え、昨年のインターナショナル・チャンピオンシップ以来のランキング・イベント決勝戦進出を果たしました。
この試合ではブレイク・ビルディングとセーフティの攻防が存分に含まれており大変素晴らしいゲームとなっていますので、一度じっくり観戦することをお勧めします。

こうしてセルビーが決勝進出を果たした反対側のブロックでは、バリー・ホーキンスとニール・ロバートソンの試合が行われていました。この試合は中盤まではフレームカウント5-5と均衡していましたが、後半からはホーキンスがゲームをコントロールしてフレームカウント10-6で勝利しました。

セルビー対ホーキンスのランキング・イベント決勝戦は今回が初めてです。世界選手権に次ぐビッグ・イベントとなったチャイナ・オープン2018を制するのは、昨年のチャンピオンで世界ランキング不動の1位マーク・セルビーか、伏兵バリー・ホーキンスか。世界選手権の行方を占う上でも今回は重要な一戦となります。

この決勝戦はランキング・イベント史上初のベスト・オブ・21で行われました。
オープニング・フレームはホーキンスが53点のブレイクにより先取します。ホーキンスが試合のペースを握るのかと思いきや、ここからセルビーが得意のゲームを上手くマネジメントを始めます。まずビッグ・ブレイクを出さずにフレームを3連取します。第5フレームではホーキンス優勢の状況から、ブラック裏へピタリとくっつけるセーフティを皮切りに、このフレームを奪います。この後も細かいブレイクと、70点オーバーのブレイクを組み合わせ、ホーキンスにペースを握らせないセルビーの戦略が上手く機能していきます。結局このセッションではフレームカウント8-2のセルビー圧勝の流れでイブニング・セッションへ向かいます。

ホーキンスが逆転する方法はただ一つ、セルビーにタクティカルプレイをさせないようにすることだけです。相手の土俵で相撲をとってもこのフレーム差を逆転することは不可能です。つまり70点以上のブレイクを出し続けるしかありません。この勝負の行方を占う上で重要な後半戦のファースト・フレームですが・・・

ホーキンスのイージーミスからセルビーがこの試合初となるセンチュリー・ブレイクを記録します。次のフレームも83点のブレイクで優勝に王手をかけます。第13フレームは危なげながらもホーキンスが最後のピンクを沈めます。第14フレームでも勢いは変わらず、セルビーがチャンスを得ると足踏みすることなくトータル・クリアランスで締めます。

センチュリー確定後、ラストカラーのイエローでホーキンスはギブアップを意思表示しましたがセルビーはそれを拒否してプレーし続けます。死体蹴りともいえる行為でしたが、ブラックを沈め大きな勝利を収めました。

バリー・ホーキンスは今シーズン、ウェルシュ・オープンに続く決勝戦進出でしたが再び準優勝となってしましました。反対にセルビーはランキング・イベント決勝戦で6連勝中という勝負強さを発揮しています。

 

昨年の11月以来のハイクオリティなパフォーマンスを見せてくれたセルビーですが、ここに至るまでは暗く厳しい時期が続いてきました。近年では類を見ないほどの強さで世界ランキング1位をキープしていますが、ここ数ヶ月では満足な結果が出せず、世界選手権3連覇に黄色信号が点滅していました。今回のチャイナ・オープンでも、「自信はないが、とにかくプレーする」と大会開幕直後は非常に消極的な発言をしていました。しかし、大会が進み勝利を積み上げてくるにつれて段々と自信を取り戻してきたといいます。そして準決勝戦では今シーズン最高のパフォーマンスを見せつけ、決勝戦では安定したプレーでゲームを掌握し続けました。

この勝利はただの1勝であるのみならず、今月末から本戦が始まる世界選手権に大きな弾みとなることは間違いないでしょう。このタイミングでマーク・セルビーの完全復活というのは、世界選手権連覇の最高のシナリオになりましたね。

 

そういえばセルビーの大活躍ですっかり忘れていましたが、今大会ではロニー・オサリバンが4年ぶりにマキシマムブレイクを記録しました。さらにその翌日にはスチュアート・ビンガムも147を達成しました。ランキング・イベントの本戦で複数回147が記録されたのは、2008年の世界選手権以来(この時はロニー・オサリバンとアリ・カーター)です。詳しくはビリヤード・デイズさんの記事を参照して頂ければと思います。
個人の感想としては、この147とその後のフレームでは、前シーズンまでの調子の悪いロニー・オサリバンのプレーを見ているようで、世界選手権が心配になってしまいました。

 

ここまで好調で、今シーズンの主役ともいえる活躍を続けてきたロニー・オサリバン、反対に存在感がほとんど無かったものの今大会で一気に盛り返したマーク・セルビー。まるで対照的な道を歩んでいる世界ランキング1位と2位のプレイヤーですが、世界選手権でもこの二人を中心に話が進んでいくことに疑いはないでしょう。

Pocket

コメント

comments